乾燥条件で飼育できる種
エンマコオロギ、エゾエンマコオロギ、タイワンエンマコオロギ、ツヅレサセコオロギ、
ナツノツヅレサセコオロギ、コガタコオロギ、ミツカドコオロギ、カマドコオロギ、
フタホシ(クロ)コオロギ、マダラスズ、シバスズ、ヒゲジロスズ、ハラオカメコオロギ、
タンボコオロギ等
多湿な環境を好む種
エゾスズ、ヤチスズ、スズムシ等
草上、樹上に生息する種
カンタン、ヒロバネカンタン、クサヒバリ、キンヒバリ、カヤヒバリ、マツムシ、アオマツムシ等
◎ 乾燥環境に強い種の飼育法
■飼育容器
プラスチック製の飼育容器(ホームセンター等で扱っているもの)が軽く、値段も手ごろで蓋が
ついているために便利です。地表に生息する上記のコオロギにとって、高さは必要ありませんが、
管理する際、跳躍によって逃げ出さない程度の高さがあると便利です(コオロギはプラスチィク
の壁面を登れません)。その他に大きな瓶や、ガラス製の水槽も使用できますが、前者は底面積が
十分でないこと、後者は蓋が一般に市販されていないことがネックになります。■床材と隠れ家
コオロギはツルツルした面を歩くことができません。床材はコオロギが歩き易い環境をつくるため
に用います。具体的には乾いた砂を、底面に底が隠れる程度に敷くか、古新聞を敷けば良いでしょ
う。プラスチィク製の容器であれば、床面を金属製のタワシで擦って傷をつけるだけでも良いです。
床材、底面は排泄物や餌の残りカスで汚れが目立つ前に交換-清掃します。床材-底面が乾燥してい
るために、餌-排泄物が臭いをあまり出さない点、床材の交換-清掃が容易な点で、湿った土を入れ
る飼育法より優れています。生物学の材料としてコオロギを用いる場合や、大量増殖が行われる際
には、底面はいま紹介した方法で管理されています。また、コオロギは夜行性の昆虫で、昼は物陰
に隠れます。植木鉢のかけらや、アコーディオン状に折った厚紙、丸めた新聞紙等を用いて隠れ家
を作ります。複雑な隠れ家はコオロギの活動する表面積を広くします。比較的小さな容器でも、隠
れ家を複雑にすることで沢山のコオロギを収容できます。しかし、過密になると共食いの頻度が高
くなりますので、注意が必要です。■餌
上記のコオロギは雑食性で人間が食べる物であれば殆どの物を口にします。しかし、傷みやすいもの
は避けなければなりません。ラット用の固形飼料、金魚の餌等の乾燥した固形飼料を適当に砕いて与
えると良いでしょう。また、生の植物(タンポポ、キャベツ、カボチャ、ニンジン、キュウリ、リン
ゴ)なども与えるとよく齧ります。気を付けなければならないのは餌の量です。大体の場合は与え過
ぎてしまいます。乾燥飼料も湿気を吸うと傷みます。沢山与えて、少なくなってから再び多量に与え
るよりも、様子をみながら少しずつ与えてください。自分がコオロギの大きさになったつもりで考え
れば、大体餌の与え過ぎに気付くはずです。しかし、沢山与えても食べ過ぎることはありません。■水
床材が乾燥していて、乾燥した餌を与える飼育法では、水分の供給に工夫が必要となります。フィル
ムケース(良く洗ってください)などの管の中に水を入れ、脱脂綿で栓をした給水管を飼育容器の床
に爪楊枝と輪ゴムを用いるなどして固定して横たえておけば、コオロギは湿った綿から水分をとるこ
とができます。■採卵
多くの上記の全てのコオロギは野外では湿った土中に産卵管を差し込み、産卵しています。マダラス
ズやシバスズ等の小型の種類では、給水管の湿った脱脂綿に卵を産みつけますし、その方が扱いが便
利です。タンボコオロギ以上の中-大型種でも綿栓に産卵しますが、長い産卵管を痛めて産卵不可能に
なる事故が多発するので、良く洗った砂や、細かく砕いたバーミキュライト、有機質の無い土(赤土
など)を湿らせて、500mlのPETボトルの底の部分を飼育するコオロギの産卵管の1.5倍程度の高さ
に切り取った産卵容器など(産卵基質が入れば何でも良い。コオロギが登れるように何か橋渡しするな
どしてください)に入れて産卵床とします。砂を産卵基質として用いれば、水の中に砂ごと卵を入れ、
軽く砂を撹拌すると、水底の砂上に卵が出てきます。これを腰の柔らかいピンセットかスプーンをもち
いて取り出し、湿った脱脂綿かちり紙を底に敷いた密閉できる容器(蓋付きの瓶など)に保存すると、
卵が水を吸う様子や、眼が着色する様子が観察できます。その際、ちり紙にカビが生えることがありま
すが、神経質にならなくても大丈夫です。カビがついても健康な卵は死にません。ただ、死んで変色し
た卵や不受精卵にはカビがすぐ生えるので、取り除きます。卵が通らない位の目の細かいふるいにかけ
た砂を産卵基質として用いると、水中で砂をふるいにかけることで、採卵を容易にできます。コオロギ
の卵は水を吸いながら発育します。このため脱脂綿や砂等の産卵床は密閉できる瓶などに入れて湿度を
保ちます。過度の水分は発育を遅らせ、死亡率を高くするので注意が必要です。卵は孵化間際になると
肉眼でも幼虫の眼が確認できるようになります。孵化幼虫は体が非常に柔らかいので、扱う際、指で摘
まむのは危険です。飼育容器に移す際は、筆や紙をちり取り状に折ったものなどを用いて扱います。瓶
の内側にくっついているものや、綿栓にくっついているものは、瓶や綿栓を軽く叩いて飼育容器に落と
します。コオロギの体は軽いので高いところから落ちてダメージを負うことはありません。孵化幼虫は
成虫と同じように飼育できますが、乾燥には親より弱いので、水分を切らさないように注意してくださ
い。乾燥条件で飼育できる種類の場合、綿栓の一部を引っ張って底面につけるなどして、水が確実に摂
取できるようにします。
◎ 多湿な環境を好む種の飼育法
エズスズ、ヤチスズ、スズムシなどは湿った環境を好みます。しかし、乾燥条件で飼育できる種と同様
の管理でも、飼育は可能です(湿度に気を使ってあげる必要はあります)。むしろ、先に述べた乾燥飼
育を味気なく感じる方、伝統的な飼育スタイルを好む方の参考にして頂きたいと思います。余談ですが
スズムシの卵は乾燥に強いようで、流通しているスズムシの卵は干涸びたような状態です。水分を与え
ると問題無く孵化します。
- ■飼育容器
- ■床材と隠れ家
■水
◎ 草上、樹上に生息する種の飼育法
多くのコオロギが地表を主な生息環境としているのとは対称的に、カンタン、クサヒバリ、
カヤコオロギ、アオマツムシ等は草上に生息しています。飼育の際にも彼等の生活環境
に留意する必要があります。
- ■飼育容器
- 乾燥条件で飼育できる種と同様です。しかし、植物体を入れて飼育するので高さが
必要です。プラスチックケースを蓋が横になるように倒して使用すると高さがとれる
ので、適当な入れ物として利用できます。■床材と隠れ家
- 両方とも特に必要ありません。次に述べる植物体がシェルターとなります。底が滑って歩き
にくそうだったら、乾いた砂を薄く敷くか、紙を敷いてください。■餌
- 乾燥条件で飼育できる種と同様の餌で飼えるものが多いですが、カンタンの仲間はアブ
ラムシを好んで食べますし、カヤコオロギはイネ科植物を食べます。このように、良くいる
植物を餌にしているものもいれば、そうでないものもいます。餌でない場合は入れなくて
も栄養補給の観点からは必要ありませんが、後で述べる産卵基質として重要な場合が多い
です。■水
- 植物体から水分を摂取できる場合がありますが、フィルムケース(良く洗うこと)などの
管の中に水を入れ、脱脂綿で栓をした給水管を飼育容器の床に爪楊枝と輪ゴムを用いるな
どして固定して横たえておけば、コオロギは湿った綿から水分をとることができます。■採卵
- 植物体上に生息するほとんどのコオロギは、植物組織中に産卵します。生きた植物体に依
存する種では、適当な長さ切った植物を水を入れた栄養ドリンクの瓶等にさして管理しま
す。カンタン、クサヒバリ等はヨモギ、ダイズ、ハギ等に産卵します。また、アオマツム
シは樹皮に傷を付けて、マツムシは枯れたススキに産卵します。生きた植物中に産むもの
でもニワトコの髄を湿らせたもの等に卵を産みつけるものがいますので色々与えてみると
良いでしょう。卵は植物体から取り出すこともできますが、そのまま、植物体の中で孵化
まで成長させることもできます。その際、植物体が乾かないように、湿ったちり紙を入れ
たビニール袋に入れて保管したり、こまめに散水して湿度を保つと良いでしょう。植物体
にはどうしてもかびが生えますが特に問題にはなりません。孵化幼虫の管理については
「乾燥環境に強い種の飼育法」を参照してください。
◎ 生活史と年間の管理
南西諸島など、一部の地域を除いて、冬にコオロギの姿をみることは殆どありません。変温動物
である昆虫にとって、冬は活動に不適当な季節です。多くのコオロギは卵で冬越ししますが、
中には幼虫で冬越しする種もいます。温室等が利用できて、冬期も温度が保てるのであれば、人
工飼料で飼育できる種の飼育は容易です。生物の中には自然と同様のサイクルを与えないと調子
を崩したり繁殖がうまくいかないものがいますが、昆虫は人工的に発育を調節してもそういった
不調は基本的にみられません。また、フタホシコオロギのように亜熱帯に生息するコオロギのな
かには、温度や湿度の影響を受けるものの、一年中繁殖していると考えられているものもいます。ここでは、コオロギの1年の過ごし方(生活史)を簡単に説明し、スズムシで行われて
きたような累代飼育のプランニングについて考えてみます。
◆生活史調節と休眠
エンマコオロギとタイワンエンマコオロギの外見は似ており、過去には別種であるとは考えら
れていませんでした。しかし、エンマコオロギが卵で冬越しするのに対し、タイワンエンマコ
オロギは幼虫で冬越しします。暖かい人工環境に依存し、成虫も冬越しするカマドコオロギを
除いて、日本の温帯のコオロギは全て卵か幼虫で冬越しします。エンマコオロギの卵を暖かい場所(25℃)で保管しても、長い間孵化しませんし、孵化がばら
つきます。一方、タイワンエンマコオロギの卵はエンマコオロギの卵に比べてずっと早く、し
かもそろって孵化してきます。どうしてこのようなことになるのでしょう? エンマコオロギ
の卵はタイワンエンマコオロギの卵よりも、ゆっくり、ばらばらに育つのでしょうか?エンマコオロギの卵を産卵後2週間ほど25℃に置いた後で、冷蔵庫(10℃)に移し、そのま
ま2ヶ月程度冷やしてから25℃に加温すると、やがて揃って孵化してきます。卵の期間は
10℃で冷やした日数を除くと、タイワンエンマコオロギと比べて、殆ど変わりありません。
それでは、冷やすと早く育つようになるのでしょうか?そうでないことは、卵を分解して胚(幼虫のもと)を観察していくとわかります。エンマコオ
ロギの卵は発育の比較的早いある時点で発育を止めてしまうのです。この停止は長い期間を経
過するか、低温を経験するまで解除されることはありません。このような停止を昆虫学では休
眠と呼び、低温や乾燥など不適な条件に置かれた際にみられる停止と区別しています。休眠は
不利な条件に先立って起こることが特徴です。卵期の休眠のために、エンマコオロギの卵が冬
になる前に孵化してしまうことはありません。タイワンエンマコオロギの卵には休眠がありませんが、幼虫には休眠がみられます。タイワン
エンマコオロギとエンマコオロギを日の長い条件(長日)と、日の短い条件(短日)で飼育す
ると、エンマコオロギでは幼虫期間が短日と比べて長日でいくらか長くなるのに対して、タイ
ワンエンマコオロギでは長日に比べて短日で幼虫期間がずっと長くなります。つまり、タイワ
ンエンマコオロギの幼虫は短日で休眠にはいるわけです。エンマコオロギの幼虫が長日で幼虫期間が長くなるのは休眠とは考えられません。その遅延は
タイワンエンマと比べて僅かなものです。これは、卵で冬越しするエンマコオロギが冬が訪れ
る前に、羽化するための機構であると考えられています。秋にエンマコオロギが鳴くのはこの
ような、短くなる日長に反応して羽化する機構をもっているためです。また、暖地のマダラスズのように、コオロギの中には1年に2回以上発生するものがいます。
マダラスズは卵で冬越しするコオロギですが、このようなコオロギは、母親が経験した日長で
卵の休眠性が変化します。卵0(春)-親1(夏)-卵1(夏)-親2(秋)-卵2(秋)と年に
2回発生するコオロギを例にすると、卵1は年1化の系統の卵と異なり、眠らずに(休眠しな
いで:つまり低温を経験しなくても)孵化します。卵2は休眠して冬越しします。卵1-卵2の
このような違いは、親1-親2の経験する日長の違いによります。親1は日が長いうちに育ち、
親2は日が短くなってから育ちます。親は日の長さを読み取って卵が休眠するかしないかを決
めるわけです。ですから、卵1から孵った幼虫も日の長い条件で飼えば、眠らない卵を産みます。
◆1年を通した管理-卵休眠の種-
今述べたようなコオロギの1年の過ごしかたに対する理解は、コオロギの累代飼育を試みると
きにいろいろなヒントを与えてくれます。卵休眠の種では普通3週間程度暖かい場所に置いてか
ら(休眠に入る前は寒さに弱いのです)、10℃くらいの冷蔵庫に2ヶ月程度置けば休眠は消去
されます。あとはいつでも加温すれば孵化します。温室-暖房設備を持っていない限り冬に孵化してしまったら困ると思うので、冷蔵庫に春までし
まっておくか、はじめから屋外の日陰(直射光に当たると密閉容器内の温度は異常に上がりま
す)で翌春まで保管すると良いでしょう。
◆1年を通した管理-幼虫休眠の種-
幼虫休眠の種は、冬の管理が微妙です。幼虫休眠のコオロギには、タイワンエンマコオロギや
タンボコオロギのように長日条件であれば休眠しないものもあれば、ナツノツヅレサセコオロ
ギやエゾスズのように、長日-高温条件下でもなかなか発育しないものがいます(しかし、短日
よりは早く発育を開始します)。また、野外では親になるのに2年を要するクチキコオロギの
ようなコオロギもいます。幼虫の休眠も、休眠に入った後で低温によって休眠からさめる点は卵の休眠と同じです。冬の
間も暖かい室内で飼うか、外に出すかは個人の好みの問題でもあります。室内で飼えばやがて
羽化して鳴き始めます。外で底に水がたまらないように工夫した容器で飼育すると、やはり多
くの個体が冬の厳しい寒さで死んでしまうでしょうが、より自然に近い形で越冬させられます。
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