キリギリスの仲間の飼い方

 

 

ヤブキリ幼虫の写真
ヤブキリ幼虫 Apr.11 2000 藤枝市

 

 

◎ はじめに

 

キリギリスは古くからその鳴き声が楽しまれてきた直翅目昆虫ですが、スズムシのように累代飼育が楽
しまれてきたわけではありません。現在でも、流通しているのは野外で捕獲された個体です。これは、
キリギリスが大量飼育に適さず、また、個別であっても累代が難しいことを理由していると思われます。
しかし、キリギリスの仲間にも比較的容易に、飼育-累代が楽しめるものがいます。

 

◎ キリギリスのタイプと飼育法

 

キリギリスの仲間の飼育はコオロギ、バッタと比較して難しいものが多いです。特に、キリギリス、
ヤブキリ、ヒメギスなどの累代飼育は大変で、この仲間に関する研究例も多くありません。後で説明
しますが、この仲間の捕食性の強さ、卵の温度要求性の複雑さが累代飼育を難しいものにしています
(ここでは真のキリギリスの仲間と呼ぶことにします)。

一方、イネ科植物の穂を好むササキリの仲間、クサキリの仲間は飼育-累代は真のキリギリスの仲間
ほど難しくありません。種によっては共食いの傾向が強いですが、温度要求性は複雑なものではあり
ません。この仲間には日本のキリギリスには珍しく、成虫で越冬するものが含まれます(穂を好むキ
リギリスの仲間と呼ぶことにします)。

キリギリスの仲間には他にササキリモドキ、ツユムシなどがいますが、飼育に関してわかっていない
ことが多いので、もう少し経験と知識を得てから紹介させて頂きます。

以下にそれぞれのカテゴリーに該当する種を挙げておきます。

 

真のキリギリスの仲間
 
キリギリス、オキナワキリギリス、ハネナガキリギリス、ヤブキリ種群、カラフトキリギリス、
イブキヒメギス、ヒメギス、コバネヒメギス等

 

穂を好むキリギリスの仲間
 
クサキリ、ヒメクサキリ、クビキリギス、オガサワラクビキリギス、シブキリ(シブイロカヤ
キリモドキ)、ウスイロササキリ、コバネササキリ、ホシササキリ、オナガササキリ、キタサ
サキリ等

 

 

 

◎ 真のキリギリスの仲間の飼育法

 

 

ヒメギス幼虫の写真
ヒメギス幼虫 May 25 2001 藤枝市

 

このグループは一般に生息環境の慢性的な蒸れを嫌います。ですが、一部で紹介されているよう
に、全面がメッシュになったカゴでないと飼育できないわけではありません。また、冷涼な環境
に生息するものでも発育に高温を必要とします。

 

■飼育容器
 
プラスチック製の飼育容器(ホームセンター等で扱っているもの)が軽く、値段も手ごろ
で蓋がついているために便利です。平面的というよりは立体的に活動する事が多く、野外
でも植物体上にいることの多いこのタイプのキリギリスの飼育には、上記のケースを立て
て使用すると良いでしょう。餌のセクションで述べる、イネ科植物を入れるためにも高さ
は必要です。飼育容器は日当たりの良い場所に置きます。
 
■床材
 
このタイプのキリギリスはほとんどのものが、垂直なプラスチックの壁を登ることができ
ます(カラフトキリギリスは登れないようですが)。ですから、多くのコオロギのように
、床面に特別な配慮をする必要はありません。乾いた砂、古新聞などをメンテナンスを容
易にするために敷くと良いでしょう。
 
■餌
 
<亜終齢,終齢幼虫-成虫>
このタイプのキリギリスは肉食性が強く、餌も動物質のものがメインになります。乾燥ド
ッグフード(食べやすいように軽く砕くと良いでしょう)は基本飼料になり得ますが、次
に述べる生き餌は累代のためには不可欠なものです。ヤブキリとキリギリスは、自分より
小さなものであれば(場合によっては大きなものでも)大抵の生きた昆虫を捕食します。
これら「生き虫」は非常に良い餌になります。ドッグフード等の人工飼料だけではあまり
卵を産まず、産んだ卵の死亡率も高くなります。生き虫の動きが素早くて上手く捕らえら
れないようであれば、少し弱らせてから(バッタであれば可哀想ですが後ろ足を折るなど
して)与えると良いでしょう。ヒメギス、イブキヒメギス、コバネヒメギス等は体も小さ
くあまり捕食性が強く無いように思われます。しかし、切ったミールワーム等を与えると
喜んで食べますし、健全な卵を得るためには不可欠なものです。また、イネ科雑草も良く
齧ります。オーチャードグラスやイヌムギ等の比較的柔らかいイネ科植物を根際で刈り取
り、水を満たした栄養ドリンクのビンなどにさして与えます。
 
<若齢幼虫>
孵化幼虫は体が非常に柔らかいので、扱う際、指で摘まむのは危険です。飼育容器に移
す際は、筆や紙をちり取り状に折ったものなどを用いて扱います。若齢幼虫は成熟幼
虫-成虫ほど、捕食性が強くありません。特に1齢〜3齢のうちは、スズメノカタビラを
アイスカップに土ごと移植したものを与えます。それとは別に、砕いたドッグフード、
瓶にさしたタンポポの花(花粉を食べる)を与えると良いでしょう。
 
■水
 
フィルムケース(良く洗ってください)などの管の中に水を入れ、脱脂綿で栓をした給
水管を飼育容器の床に爪楊枝と輪ゴムを用いるなどして固定して横たえておけば、キリ
ギリスは湿った綿から水分をとることができます。
 

■採卵

 
このタイプのキリギリスは野外では湿った土中に産卵管を差し込み、産卵しています。
ヒメギス、イブキヒメギス、コバネヒメギスでは、給水管の湿った脱脂綿や、餌として
与えたイネ科植物の茎と葉の間等に卵を産みつけます。キリギリス、ヤブキリでは良く
洗った砂や、細かく砕いたバーミキュライト、有機質の無い土(赤土など)を湿らせて
、1.5lのPETボトルの底の部分を飼育するキリギリスの産卵管の1.5倍程度の高さに切り
取った産卵容器など(産卵基質が入れば何でも良いです)に入れて産卵床とします。砂を
産卵基質として用いれば、水の中に砂ごと卵を入れ、軽く砂を撹拌すると、水底の砂上
に卵が出てきます。これを腰の柔らかいピンセットかスプーンをもちいて取り出し、湿
った脱脂綿かちり紙を底に敷いた密閉できる容器(蓋付きの瓶など)に保存すると、卵
が水を吸う様子や眼が着色する様子が観察できます。その際、ちり紙にカビが生えるこ
とがありますが、神経質にならなくても大丈夫です。カビが少しくらいついても卵は死
にません。ただ、死んで変色した卵や不受精卵にはカビがすぐ生えるので、取り除きま
す。ただし過度の水分は発育を遅らせ、死亡率を高くするので注意が必要です。この仲
間は孵化の最適温度が低かったり、複数の休眠期を有し、長期休眠をするものがいたり
して、胚発育の生理特性が複雑です。これについては、「生活史と年間の管理」で述べ
ることにします。

 

 

◎ 穂を好むキリギリスの仲間の飼育法

 

オナガササキリ♀の写真
オナガササキリ♀ Sep.15 1999 藤枝市谷稲葉

 

このグループはキリギリスの中では比較的飼育が容易な種を多く含みます。

 

■飼育容器
 
プラスチック製の飼育容器(ホームセンター等で扱っているもの)が軽く、値段も手ご
ろで蓋がついているために便利です。平面的というよりは立体的に活動することの多く
、野外でも植物体上にいることの多いこのタイプのキリギリスの飼育には上記のケース
を立てて使用すると良いでしょう。餌のセクションで述べる、イネ科植物を入れるため
にも高さは必要です。飼育容器は日当たりの良い場所に置きます。
 

■床材

 
このタイプのキリギリスの全てが、元気なうちは、垂直なプラスチックの壁を登ること
ができます。床面に特別な配慮をする必要はありません。乾いた砂、古新聞などをメン
テナンスを容易にするために敷くと良いでしょう。
 

■餌

 
<亜終齢,終齢幼虫-成虫>
このタイプのキリギリスはイネ科植物の穂を好んで食べます。クサキリ、クビキリギス
のような大型のものはイヌムギやカゼクサ、エノコログサのような大型の穂を好み、
ササキリの仲間はスズメノカタビラのような小型の穂を好みますので、これらの穂を水
を入れた瓶にさして与えます。採卵を容易にするために適当な量の穂を瓶の口の部分で
脱脂綿や、プラスチック製の梱包材(ぷちぷち潰すあれです)を用いて巻くと良いでし
ょう。乾燥ドッグフード(食べやすいように軽く砕くと良いでしょう)も食べますので、
与えます。ウスイロササキリでは卵巣の成熟に動物質の飼料が必要であるとする報告が
あります。
 
<若齢幼虫>
孵化幼虫は体が非常に柔らかいので、扱う際、指で摘まむのは危険です。飼育容器に移
す際は、フィルムケース等を用いると良いでしょう。1齢〜3齢のうちは、スズメノカ
タビラをアイスカップに土ごと移植したものを与えます。
 
■水
 
フィルムケース(良く洗ってください)などの管の中に水を入れ、脱脂綿で栓をした給
水管を飼育容器の床に爪楊枝と輪ゴムを用いるなどして固定して横たえておけば、キリ
ギリスは湿った綿から水分をとることができます。
 

■採卵

 
このタイプのキリギリスは野外ではイネ科植物の根際や、茎と葉の間に産卵管を差し込
み、産卵しています。飼育条件下では餌として与えたイネ科植物の茎と葉の間や、吸水
管の綿栓の中に産卵します。卵はそれらの産卵基質から取り出し、湿った脱脂綿かちり
紙を底に敷いた密閉できる容器(蓋付きの瓶など)に保存すると良いでしょう。
その際、ちり紙にカビが生えることがありますが、神経質にならなくても大丈夫です。
カビが少しくらいついても卵は死にません。ただ、死んで変色した卵や不受精卵にはカ
ビがすぐ生えるので、取り除きます。

 

 

◎ 生活史と年間の管理

 

キリギリス科昆虫の研究はHartley(1971)が卵を傷つけることなく胚発育を観察する方法
(有機溶媒に漬けて、透過光で観察)を発見し、続いてWarne(1972)がこの方法を用いて、
ヨーロッパ産キリギリス科昆虫56種の胚発育を調べ、胚形態発育のステージ分類を行なった
ことを契機として大きく進展しました。それまで困難とされていたキリギリス科昆虫の累代
飼育はその後、卵に様々な温度条件を与え、胚発育を促し、孵化させる方法の開発(Hartley
and Warne,1972; Hartley and Dean,1974)によって可能となりました。

ここでは、キリギリスの仲間の生活史を俯瞰して、飼育にどのように反映させていくか考え
てみます。

 

◆生活史調節と休眠
 
多くの図鑑では、キリギリスの生活史を年1化として紹介しています。
「昆虫と自然」30(11),1995 キリギスの生活環と卵休眠(安藤喜一)
をもとに書きます。
 
上記の文章によるとキリギリスは2つの卵休眠ステージを持ちます。つまり、キリギリ
ス(ハネナガ、オキナワも同様。以下、特に区別しません)の場合、幼虫の基になる胚
が孵化までの発育の途中(2つの特定の段階:一つは産卵後しばらくして到達する早い
ステージ、もう一つは幼虫の体がほぼ完成した遅いステージ)で止まることがあるとい
うことです。「ことがある」と書いたのは2つある休眠ステージのうち、早い方では休
眠しないことがあるためです。上記の休眠ステージ間に高温で止まる夏眠のステージが
ありますが、後で簡単に触れるにとどめます。2つの休眠ステージのためにキリギリス
の孵化時期は産卵の翌年〜最大4年後までばらつくと考えられています(生息地の温度
をシミュレーションした結果得られたデータ)。2つの休眠ステージで4年の卵期を持
つのは、早い方の休眠ステージで3回冬越しするためです。4年後に孵化する卵(4年
卵)はその後遅い方の休眠ステージにまで3年目の夏に発育して、もう一度冬越してか
ら孵化します(4年卵は札幌のものではみられませんが、釧路のものではみられます。
くどいようですが温度シミュレーションの結果です)。
札幌のものでは1年卵(早い方の休眠ステージで止まらず、遅い方のステージだけで休
眠する。翌年孵化する)。は産卵された卵の1.8%でしかありません。2年卵(2つの
ステージで1回ずつ休眠)は70.2%、3年卵(早い方のステージで2回、遅い方で1回
休眠)は28.0%となっています。参考までに岡山のキリギリスは74.7%が1年卵、25.3
%が2年卵です。沖縄のオキナワキリギリスは4.6%の2年卵を除けば1年卵です。
 
休眠は基本的に低温(だいたい10℃以下。しかし、0℃以下は効かないことが多い)に
よって消去されます。「基本的に」と書いたのは、比較的高い温度(20℃程度)でも長
い時間をかければ休眠は消去され発育するようになることがあるからです。さらに、早
い方の休眠ステージ以降の発育では、あまり高い温度を好みません。25℃以上の温度に
産卵からさらされ続けると、2つの冬休眠の間のステージで夏眠に入り、温度が低くな
るまでそのまま発育を停止します(低くなるとすぐ発育する点は、先に述べた2つの休眠
が長い低温期間を必要とする点と異なります)。孵化の適温は15〜20℃位であるようです。
 
なお、このように人工条件では面倒な温度管理が必要となりますが、植木鉢の土などに
産卵させて、そのまま植木鉢を地面に埋める(蟻の侵入を防ぐため底は塞いだ方が良い
かもしれません)等すれば、自然の温度を経験させることができます。人工条件下での
休眠卵の割合と野外での割合が大体一致するのか否か興味深いところです。
 
上のような特殊な生活史を有するもの以外、累代飼育のプランニングはコオロギに準じ
ますので、そちらを参照してください。
 
 
 
 

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